豊かな漁場と生産者の巧みな技術

新魚種 クエ×タマカイ “いいとこ取り”新魚

2018年09月11日

おいしくて成長2倍

高級魚のクエと、同じくハタ科で成長の早いタマカイを掛け合わせた新魚種の生産が進んでいる。愛媛県宇和島市でブリやトラフグなどの養殖、加工を手掛けるイヨスイ(荻原達也社長)は、新魚種を「タマクエ」として商標登録を済ませ、今秋から国内向けの本格販売を始める。一方、「クエタマ」として新魚種の開発を進める近畿大学水産研究所は、種苗生産に成功。升間主計教授は、「生産できる環境は整った。新しい魚種として受け入れられるといい」と展望を話している。

イヨスイが新魚種の開発を始めたのは10年ほど前。ハタ科魚類の需要の高い中国で、現地研究機関や企業と開発を進め、ハタ科に属するタマカイとクエの交雑種の養殖生産が可能になった。数年前から中国で生産される稚魚を買い付け、宇和島で養殖し中国向けなどに販売してきたが、生産が軌道に乗ってきたことから今年の秋口から日本国内向けの本格的販売を始める。

クエは高級魚として日本国内でも刺身や鍋料理などで人気が高いが、養殖には4~5年かかるため生産コストが高くなる。

一方のタマカイは大型に成長するのが特徴で、最大は270センチ、400キロとの記録もある。「タマクエ」は、味わいはクエのままに2年程度で出荷サイズに成長するため、クエよりも生産コストが抑えられる利点がある。

同社は現在15万尾近くを養殖しており、日本国内向けには年間約5万尾の販売を計画。1~1.5キロサイズが中心だが、5キロが基準の一つでもある養殖ブリのように、もうひと回り大きなサイズでの流通を目指す。また、活魚中心のクエに対し、タマクエは活に加えて冷凍やチルドでの販売も手掛けていく。凍結してもおいしさに見劣りはないという。

イヨスイの荻原社長は「クエのおいしさはそのままに価格を下げられるので、国内でも高いニーズが見込める」と展望を話したうえで、海外にも目を向け「中国国内だけでなく、世界中の中華系の人にクエは人気がある。中国や米国はもちろんだが、シンガポールや香港などのアジア圏に広く販売していきたい」と戦略を示す。

一方、「クエタマ」の名称で新魚種の研究を進める升間教授は、「クエの卵にタマカイの精子をかけることで種苗生産が可能になっている」と説明する。クエは国内で完全養殖に成功しており、タマカイは台湾やマレーシアから精子を調達している。また、近大水研の奄美実験場で親魚の養成にも取り組んでいるという。

升間教授は「クエタマは2年で2キロ以上のサイズにまで成長した。通常のクエが同期間で1キロ程度までしか成長しないことを考えると2~3倍は早い」と成長の速さを説明する。

東京・銀座にある料理店「近畿大学水産研究所」で、季節メニューとしてクエタマを提供したことはあるが、まだレギュラーメニューには入っていない。今後は「生産者と協力して、安定的に生産できるようになるといい」(升間教授)と話している。

2018/9/11 水産経済新聞

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