鹿児島・東町「むじょかサバ」養殖―若手漁業者が挑戦
2019年09月26日
高評価でも「研究の途上」
全国最多クラスの年間220万尾近い養殖ブリを生産することで知られる鹿児島県のJF東町漁協で、養殖サバの生産、販売が始まっている。取り組んでいるのは30~40歳の若手漁業者4人。水揚げから出荷まで愛情を込めて丁寧に扱うことで高品質な仕上がりにし「むじょか(かわいいの意味)サバ」の名前でブランディングも進めている。
4人の中では最年長、45歳の濱常人さんがイケスでサバ養殖を始めたのは先代の父親が経営を主導していた頃。定置やまき網漁も営むため、まき網に入るサバの稚魚を「もったいない精神で生かしていたのがきっかけ」と笑う。
本格的に始めたのは10年ほど前。八代海など東町管内では大規模な赤潮被害が発生し、養殖ブリは大きな被害を受けた。濱さんは多様な魚種を生産することの重要性を痛感し、赤潮に強いサバ養殖に取り組み始めた。
濱村修二さん(42)、山下泰士さん(34)、長元翼さん(32)が濱さんに教わりながらサバ養殖を始めたのは4年ほど前。単一魚種に頼らない養殖の必要性に共感し、それぞれ神経〆の勉強やイベントでの販促活動に参加するため各地へ足を運んできた。
目指しているのは脂が乗りすぎていないおいしさ。ノルウェーサバは25%近い高い脂質を売りにしているが、「むじょかサバ」は20%程度にとどめるよう調整している。餌はモイストと特別仕様の配合飼料。飼料会社の協力を得て、「黒糖やもろみ酢を混ぜてみたり研究を続けている」(濱村さん)。
イケスの中で抱卵したサバを試験所に送り、人工種苗の養殖にも実験的に取り組んでいる。長元さんは「人工種苗の方が値段は高いが、不漁年への備えにもなる」と説明。
年間の生産量は4漁家合わせて約20万尾。漁場は「潮流れが速いため溶存酸素量が多く運動量も多くなり、おいしいサバができる」(山下さん)。
水揚げ、出荷は家族総出でお互い協力してこなす。注文に応じて生かし、神経〆、脱血まで処理。「むじょかる(愛情込めた)」扱いをされているのは、水揚げ作業を見るとよく分かる。たも網で水揚げすると毛布を敷いた箱の中で、即座に活〆。そのまま、氷水を入れたタンクの中に沈める。注文によっては、その場で神経〆もする。
車で5分とかからない作業場へタンクを移動し、家族総出で発砲スチロールに詰めていく。箱には脱水シートを敷き、丁寧に魚を並べた上にフィルムを敷き、フタをして配送。産地には当日、もしくは翌日に着く。
料理店に直接送ることも多く、それぞれが養殖するシマアジなどを一緒に入れることもある。
直接販売の形だが、漁協との協力体制も盤石だ。東町漁協子会社の㈱JFAによる海外輸出なども利用。JFAが運営する食堂「長島大陸食堂」でも7月からは「むじょかさば」を使った「しめ鯖定食」として提供。好評を博している。
4人とも「養殖方法はまだ試行錯誤」と口を揃える。数量を追うよりも、今のままの丁寧な出荷を続け、身質の研究などに注力していきたい考え。すでに高評価を得ている「むじょかさば」だが、まだ成長の途上にある。
2019/9/26 水産経済新聞